ジョン・ウッド:1000万人の子どもに教育を~ビジネスで世界の貧困撲滅


ジョン・ウッドとの出会い


ルーム・トゥ・リード ジョン・ウッド
ジョン・ウッド氏と

ある日本屋で、ふと目にとまったタイトルにどうしようもなく惹かれ、中身もろくに見ず買ってしまった本がある。その本とは、「マイクロソフトでは出会えなかった天職~私はこうして社会起業家になった」。これが世界的な社会起業家 ジョン・ウッド氏と私の最初の出会いだった。 

 

私はこの本を読んで何度も涙した。途上国の多くの子ども、とりわけ、少女が、虐待や貧困に苦しみ、短い生涯を終えるか、社会の底辺で苦しみ続けている現実。伝える術を知らない彼らの声はあまりにも小さくて、日々の生活に追われている私達には聞こえていない。

 

ジョン・ウッド氏はマイクロソフト在職中に訪れたネパールで、その現実を目の当たりにしたという。貧困にあえぐ人たちは、その現状を打破する知恵も力も持っていない。そして貧困の連鎖は親から子へ受け継がれ、彼らが社会で活躍し、普通に生活をするチャンスは無に等しい。

 

しかしジョンはその状況を変える方法があることを知っていた。教育だ。教育こそが貧困の連鎖を断ち切り、自らのおかれた状況を理解し、考え、努力する機会を掴むことができる。そこで、彼は途上国の子ども達に『教育』というチャンスを提供するため、昨日も、今日も、そして明日も、世界を飛び巡り、驚異的なスピードで学校や図書館を建て続けているのだ。

 

東京の六本木でお会いした。ジョンは、美しいブルーアイに、金髪で長身、少し早口だが、相手の心をしっかり掴む話術をもつ男性だった。インタビュアーとしての私は、沢山の記事や本を読んで準備したにも関わらず、今までにないほど緊張してしまった。しかし、優しいジョンは、こちらの気持ちを察し、積極的に自らの思いや体験を語ってくれた。

 

クリントン大統領が支援する理由


ケイティ堀内:

―NPO「Room to Read」(以下RTR)は、クリントン元大統領から彼の財団を通じて、大きな財的支援を受けているそうですね。多くのNPO団体が、彼らのようなトップクラスの組織から支援を受けることを望んでいるというのに、なぜRTRが選ばれたのでしょうか?

 

ジョン・ウッド:

「私のアプローチの方法は、非常にシンプルな二つの単語で表現できるんですよ。つまり、『結果が全て (Results Speaks)』という事です。

 

理想だけを語ることは簡単です。現に、教育の大切さを説いている団体は山のようにあります。私たちは子どもの教育の重要性について語るだけではありません。実際に行動を起こし、大きなスケールで取り組み、結果を出しています。例えば、我々RTRはこの13年間で、世界中に1,700校を開校し、16,000の図書館・図書室を設置し、1300万冊もの本を届けました。このような『結果』がクリントン元大統領をはじめ、多くの世界トップクラスの資産家の心を捉えたのだと考えます。

 

私たちは、設立当時は無名の存在でしたが、現在では世界で最も成功した教育のNPO団体に成長しました。私がマイクロソフトで学んだ事や、ケロッグでの授業は貢献してくれていると思っています。」

 

ジョンはもともと第一線のビジネスマンであり、NPOとはかけ離れた立ち位置にいた。RTRを立ち上げる前は、金融機関でフィナンシャルのプロとして経験を積み、ケロッグでMBAを取得後、1990年にはマイクロソフトで、大中華圏市場を統括するマーケティングのエグゼクティブとして大活躍をしていた人物だ。

 

RTRが他の慈善事業団体と同じような活動を行っていたら、これだけ多くのトップビジネスマンたちの賛同を得続けることはできなかっただろう。本当に世界を変える「手ごたえ」が彼らに伝わってこそ、この事業が「ビジネス」として光を放つ。この戦略こそが、多くのエクゼクティブ層を惹きつけるジョンのビジネス手腕なのだ。

 

いかに試練を乗り越えたか


ケイティ堀内:

―このような事業を成し遂げるのにはさまざまな困難があったと思いますが?

 

ジョン・ウッド:

「そうですね、2008年のリーマン・ショックの時は、非常につらい時期でした。リーマンが倒産した時、我々は約7億円相当の支援金を失ったのです。

 

このとき多くの支援者が、「市場が相当悪いので、支援金をもはや約束できない」と言い出し、我々はそれが多くの学校建設プロジェクトなどをキャンセルすることを意味しているとわかり、非常に落ち込みました。このリーマン・ショックによって一番痛めつけられるのは、実は、世界の貧困者たちなのだということを目の当たりにしました。

 

しかし、私たちは諦めず、今までよりもっと熱心に活動を続けました。その結果、一つもプロジェクトをキャンセルすることがないどころか、年18~22%の成長遂げることができたのです。

 

ケイティ堀内:

―なんと、あの困難な時に、7億円もの支援を失いながら、成長を遂げたのですか!?

一体、どうやって成し遂げたのか、教えてください。

 

ジョン・ウッド:

「特別なことは何もありませんよ。私たちは、シンプルに、今までよりも賢く、熱心に活動しただけです。私はより遠くまで遠征し、より多くのイベントに参加し、メッセージを伝えました。多くの人は、この世界的なクライシスによって、自分ではどうしようもない状況になってしまったと悲観していました。でも私は、子どもたちへの教育支援は『自分ではどうしようもない事』だとは思わない。図書館建設に支援することもそう、『自分でコントロールできること』だと思うのです。

 

つまり、『自分ではどうしようもできないこと』を考えるのではなく、『自分がコントロールできること』に目を向ける、ということが大事だと思うのです。」 

 

自分が受けた幸運を、他の人に分け与える


ジョン・ウッド:

「私は、誰でも何かを成し遂げることができる、というメッセージを、毎日のように伝えています。例えば、世界のトップ校であるケロッグ経営大学院という学校に入学できた人は、多大な幸運を授かった人です。なぜって、その幸運は自分一人でつかんだのではなく、たまたま先進国に生まれ、十分な教育の環境があって、親や周囲の人々が献身的に支援してくれた結果だからです。

 

実は、ケロッグだけでなく、ハーバードやウォートン、それ以外の数多くの世界トップクラスの教育を受けられた人々は、みな同様に幸運な人なのです。だからこそ今、自分が授かった幸運を世界の貧困やHIVに苦しむ子どもたちや孤児たちに分け与えたとしたら……。

 

自分がもらった幸運を同じように社会に返すことで、貧困層の子ども達がいつか大人になって、「自分は人に助けられて、本当に幸運だった。だから今度は誰かに返したい」と考えるのではないでしょうか。そういう連鎖が起きれば、世界中が支援しあえる素晴らしい社会となっていくでしょう。」

 

このような崇高な目的を、ジョンは本気で実現しようとしている。なぜこれほどまでに多くの問題を乗り越え、結果を出し続けられるのか? 彼の根底にある思いについて聞いてみた。

 

より良い世界のために


ケイティ堀内:

―ジョン、あなたにとっての人生の成功とは、何でしょうか?

 

ジョン・ウッド:

「私は、自分が死ぬ日まで、大好きなこの活動を続けたいと思っています。ですので、私にとっての人生の成功とは、毎日この大好きな事業をやれることと、私の活動が世界を変えることに結びつくことに他なりません。」

 

ケイティ堀内:

―より良い世界のために、ですか?

 

ジョン・ウッド:

「はい、そうです。より良い世界のために、です。」

 

 

コトラー教授の取材でも伝わったこの言葉。ジョンの心の奥底から私の中へ入ってきた気がした。本気で世界を変えたい、変えることができるという強く信じている。そして、ビジネスを通じて、世界をより良い世界に変えようとしているプロフェッショナルがケロッグに存在していたことに深い感動を感じた。

 

 

これを読んでRTRの活動に感銘を受けたたくさんの人が、RTRのWebサイト(http://japan.roomtoread.org/)から、彼の事業に参加してくれることを心より願う。